お盆、田舎へ帰った。家族と山でBBQをして、たらふく飲み喰いさせて頂いた。小学生の甥っ子はおやつの時間にジュースを飲んでいた。飲み干すとためらうことなく次のもう一杯へ。その光景を滞在中よく目にした。
今から遡ること30年。NHK朝の連続ドラマおしんが放送開始された、小生8歳の夏。
丁度今の彼等の頃合である。当時、果汁入り飲料水、ジュースなるものは冷蔵庫に配備されておらず、透明の細長い容器に入った麦茶が支給されていた。それこそが外で遊び汗をかき、火照った身体を冷やす唯一の慰めであった。
果汁入り飲料水は一年にいくつもない特別な日にのみ支給される。小生はとりわけ透明色タイプのリンゴの果汁入り飲料水が好物であった。一度飲んだら忘れられないあの味。8歳の少年には過酷であった。麦茶の日々の中に一瞬の流れ星のように現れるリンゴの果汁入り飲料水。その日を待ちわび憧れた夏。
そんな真夏のある日、日々の麦茶がリンゴ水に見えたのだ。よく見ると色はそう遠くはない。灯台下暗し、である。そしてキンキンに冷やした麦茶を、舌を経由せず直接喉へ注ぎ込む。そうすることで味覚を麻痺させ、かつ色はリンゴ水である。
その日から更なる改良を目指し、色については麦茶に水を調合しリアル感を追求、味については大量の氷とブレンドすることにより喉を麻痺させ、味覚を騙す。半目を開けて3メートル先をぼんやり眺めて飲む、という完成物をたしなむ際のベストな姿勢も開発し、首をかしげる姉を横目に、訓練の日々を送った。
そんな日々をふと思い出したこの夏。
今では、身体をいたわり常温の透明水を頂く始末である。